2023/01/04

Apple Siliconは移行完了前にして既に行き詰まっている、という話。

あけましておめでとうございます。

2022年はほとんどブログ更新しないまま1年が終わってしまいました。GPD WIN Hackintoshの記事は昨年の記事のアップデートですからね・・・(そしてこれも古くなってしまった)。 

年の瀬は生存報告も兼ねて、買おうと思っていたM2 Pro Mac miniが2022年に出なかった腹いせにApple Siliconへの逆張りをしてみようと思・・・ってたんですが、これすらも間に合わず、新年の一発目(そして今年最後かもしれない)ネタとなりました。

さて、Intel x86との決別を宣言し飛ぶ鳥落とす勢いに見えるApple Siliconシリーズですが、そんなに絶賛されるほど凄いものではないんじゃないかという思いがずっとあります。そして、まだMac Proを残し完全移行が終わっていない今の段階にして、既にそのロードマップには破綻の兆しがあるのでは?とも思っています。そのあたりをつらつら書いていく怪文書です。

しかしながら、ちんたらしていたら2022年末の下記記事で言いたいことはほとんど全て書かれてしまっていました。

巻き返しの準備を進める「Intel」 約束を果たせなかった「Apple」――プロセッサで振り返る2022年
https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/2212/31/news070.html

やはり筆が遅いのは良くないですね。というわけで本当にどうでもいい怪文書となっております。

Apple Siliconは革新的か?

Apple Siliconの将来を占う前に、まず現状のApple Siliconが言われているほど革新的な製品ではないんじゃないかという話です。なぜこんな話から始めるかと言えば、Apple SiliconがPC向けCPUの常識を覆すほどの革新性によってIntel/AMDを突き放すことがができているのか、半導体の性能予測の延長線上にある製品なのかで今後の見通しが変わってくるからです。そして自分は後者だと思っています。

Apple Silicon、現行製品で言うところのM1/M2シリーズの、Intel/AMD CPUに対する優位性は

  • 圧倒的なワットパフォーマンス
  • 絶対的なシングルスレッド性能

の2点、およびこれを両立している点じゃないでしょうか。
(ちなみに今回は個人的興味の範疇であるCPUの話だけで、GPUの話はしません。GPUはM1 UltraであってもハイエンドGPUにかすりもしないので、そこまで重視していません) 

ワットパフォーマンスはM1が出た当時の2020年だけでなく2023年初頭においてもIntel/AMDから隔絶しており、「常識を覆すほどの革新性」を持っているように見えます

しかし、これは単にApple SiliconとIntel/AMD CPUのスイートスポット、つまり「どの消費電力レンジで最高のパフォーマンスを出すか」についての設計方針の違いでしかないと思っています。

ワットパフォーマンスといっても30Wで一定の性能が出るCPUを60Wで動かして性能2倍、性能半分なら15Wで動くかというとそうとは限りません。CPUによってベストなワットパフォーマンスが出るレンジは異なり、それはCPUコアの設計に大きく左右されます。

Intel/AMDのCPUコアは薄型ノートPC(TDP一桁台)からワークステーション/サーバー(三桁台)までをカバーする必要があり、4コアであれば大体45〜65Wあたりがワットパフォーマンスのスイートスポットかと思います。一方Apple SiliconはiPhoneのSoCがベースなので、(ラージコアの方が)4コアでのスイートスポットは10Wかそれ以下くらいでしょう。

むしろ、大体TDP 10W程度の熱設計であるMacBook Airと筐体は65Wまで対応するMac miniのベンチマークスコアが変わらないことを考えると、10WでさえM1にとっては「ブン回している」領域かもしれません。

この性質の違いがノートPCに載せたときのワットパフォーマンス差を実現していますが、一方でM1に65W流そうが125W流そうが性能は上がらない、すなわちワットパフォーマンスは漸減してしまうので、これは単純に得意分野が違うだけということの現れです。

 

次に絶対的なシングルスレッド性能について。

電力供給を増やしても性能が上がらないとしても、省電力のまま絶対性能が出ていれば問題ないわけで、実際にCPUコアの性能を測るに適したシングルスレッド性能において(ベンチマーク上は)M1は当時のIntel/AMDの(TDP三桁の)CPUを凌駕していました。

ただ、これは当時5nm(TSMC N5)でM1を製造できていたところ

  • Intelがプロセス技術の更新において猛烈に足踏みしており14nm止まりだった
  • AMDがApple自身がTSMCの供給枠を押さえたことで7nm止まりだった

ことが大きく、IntelがAlder Lake→Raptor Lake、AMDがZen 4になった現在はGeekbenchだけ見れば

Zen 4(N5P?) ≧ Raptor Lake(Intel 7) > M2(N5P) > M1(N5) > Zen 3(N7P?) > Zen 2(N7) ≧ Comet Lake(14nm)
(※ Intel 7は10nmだがTSMC 7nm相当の技術、Zen 4が「最適化N5」と称しておりN5かN5Pかが不明瞭)

といった並びになっており、M1/M2の優位性はアーキテクチャ自体の革新性というよりはTSMCのプロセスノードの優位性、つまりApple単独の力で突き放せないところに依拠していることがわかります。
(というより、常に1〜2世代遅れのプロセスを抱えながら戦えているIntelの強さがわかりますね・・・)

というわけで、

  • 圧倒的なワットパフォーマンス → 低消費電力レンジに寄せた結果
  • 絶対的なシングルスレッド性能 → 採用プロセスノードにおいて順当な性能

とそれぞれPC向け半導体として説明がつく性能の範囲であり、そこにIntel/AMDが対抗し得ない魔法がないことはわかるんじゃないかと。

Apple Siliconは製品ラインナップを完成させられるのか?

というわけで本題です。

この「低消費電力に特化したApple Silicon」ですが、製品ラインナップを下から上まで塗り替えてIntel Macからの移行を達成することができないのでは、具体的にはMac Proの更新ができないのではないか、との疑念があります。(iMac Proのことは忘れましょう)

Mac Proの更新だけなら些細な問題に感じますが、要は「高消費電力が許容される領域での絶対的なシングルスレッド性能競争から脱落してしまうんでは?」という疑念です。短期的にはMac Pro問題ですが、中長期的にApple SiliconとIntel/AMDのプロセス世代が近づくと16インチMacBook Pro/Mac mini/Mac Studioあたりまで波及してくる問題です。

この問題については以下の順で説明していこうと思います。

  1. 今の作り方では消費電力を増やしてもシングルスレッド性能を伸ばせない
  2. コア数増加による性能向上は既に限界
  3. シングルスレッド性能に特化したコアを作る余地がない

1. 今の作り方では消費電力を増やしてもシングルスレッド性能を伸ばせない

前半で書いてきましたが、M1/M2はMacBook AirだろうとMac Studioだろうとシングルスレッド性能が変わらないことからわかるように、デスクトップ向けに消費電力を増やしたとしても性能が伸びないアーキテクチャとなっています。

そして、これは現行のM1/M2の課題ではなく、Apple Silicon自体が抱える避けられない問題です。なぜなら、M1/M2のCPUコアはApple製品の中で何よりも重要なiPhoneに最適化されて作られており、それをMac向けに流用している都合上ワットパフォーマンスのスイートスポットを高消費電力寄りにシフトすることが不可能だからです。

元々、Apple Aシリーズは(Snapdragonなどスマートフォン向け競合SoCが多コア化にシフトする中でも)ラージコアが2コアに留まる「スマートフォン向けにしては異様にシングルスレッド性能に振ったコア」を載せ続けており、かなり以前から周到にMacへの展開を考慮していたことがわかります。逆に言えば、iPhone向けとしてはコアを大きくして更にシングルスレッド性能に振る余地はもう残ってないと言えます。

よって、今後アーキテクチャの刷新で(プロセス技術の更新を超えて)シングルスレッド性能を伸ばしていくことは難しいと思われ、Mac Pro、あるいはIntel/AMDがプロセス技術でキャッチアップするとそれ以下のモデルでも対抗できなくなっていく恐れがあります。
(現在はTSMCを札束で殴って先端プロセスを先取りしているので、同じTSMCを使うAMDには構造的にキャッチアップされないというやや汚いアドバンテージはありますが……)

2. コア数増加による性能向上は既に限界

シングルスレッド性能が頭打ちであれば、コアあたりの省電力性を活かしてコア数を増やしていくアプローチが考えられます。しかし、既にM1 Ultraで16+4コアに達しており、スモールコア4を無視するとしても現行のコンシューマー向けCPUの最大であるRyzen 9 7950Xと同じコア数になっています。

現行のMac Proが28コアCPUを最大としているため、M1 Ultraを2連結した32+8コアまでは実現されそうですが、やはり据え置きとなるシングルスレッド性能についてはどんどん不経済になってしまいます。

また、Ryzen 9 7950Xは8コアごとにダイが分かれるチップレットアーキテクチャだからこそ16コアを実現できているわけで、Ultra Fusionによるモノリシックダイの広帯域に依拠したApple SiliconはSoCが倍々ゲームで大きくなってしまうと競争力のあるコストで製品を作れません。

まあ、Mac Proは元々価格競争力を度外視した製品なので問題ないでしょうが、Mac Studioに載ったM1 Ultraの時点で既に無理が出ていることが感じられます。例えば、Ryzen 9 7950Xはコア数が半分のRyzen 7 7700Xの+7割程度で買えますが、Mac StudioのM1 Max/UltraモデルはSSD容量を揃えた上で価格差が(SoC以外は共通なのに)+8割以上になり、差額は25万円に及んでしまいます。もっと細かいことを言えば、GPUをフル積載(Max=32、Ultra=64)した場合の差額は2倍以上に広がり36万円となり、M1 Ultraの時点でダイサイズがあまりに巨大で歩留まりが絶望的なことが読み取れます。

この問題を解決するにはAMDと同様にCPU・GPUをそれぞれチップレットにするしかありませんが、AMDが2019年に採用してからIntelが追従するのが2023or2024年、モノリシックダイによる広帯域をアピールポイントにするApple Siliconが簡単に追従できるでしょうか?

3. シングルスレッド性能に特化したコアを作る余地がない

このように、現在のApple Siliconのアーキテクチャでハイエンド向けCPUとしての性能を伸ばしていくのは困難に思えます。となると、現行のラージコアに代わる、シングルスレッド性能に特化したMac専用のCPUコアを作る必要があると思います。

Appleは少なくとも省電力に特化すれば圧倒的なワットパフォーマンスを持つCPUコアを開発する実力はあるので、そのようなMac専用CPUコアを作れば充分にIntel/AMDに対抗できるか、より優れたものを作ることが可能に思えます。が、実際はそんなものを作る余力はないんじゃないでしょうか。

Appleの屋台骨は言うまでもなくiPhoneであり、iPhone向けに膨大な開発リソースを注ぎ込めるからこそ優れたCPUコアを作ってMacに流用できるわけで、規模の小さいMac向けに専用コアを作ることに多大なリソースは割けないと考えられるからです。

いやいや、M1シリーズはM1/M1 Pro/M1 Max/M1 Ultraと複数のバリエーションを展開できているのだから、Mac向けの開発リソースも潤沢なはず、と思うかもしれません。しかし、この中で実際にMac向けに開発されたのはM1 Maxだけです。

無印のM1は名称こそMac向けですが、それまでA12XなどXシリーズとしてiPad向けに製造されてきたSoCそのものでしかありません。Appleは「iPadにもM1を載せた」などと喧伝しますが、XシリーズはM1以降作られていないですし、A12Xは4+4コアだったことからも無印のM1は紛れもなくA14Xと呼ばれるはずだったものですM2もA15Xです。映像出力が2ポート(MacBookシリーズでは本体画面+外部1ポート)のみという貧弱な仕様も、M1/M2が本体画面とテレビ出力さえあれば良いiPadのSoCであることを如実に示しています。

つまり、真のMac向けApple SiliconはM1 Pro以上だけです。そして、M1 ProはM1 MaxのGPU(とUltra Fusionインターコネクト)カットダウン版であり、M1 UltraはM1 Maxを2つUltra Fusionで接続したものなので、1世代でMac向けに作っているダイバリエーションは1種類だけです。おそらく、Mac Pro向けに32+8コアSoCを作るとしてもM2 MaxをIOダイのようなものを経由して4枚クロス接続するものになるでしょう。

Apple Silicon MacはiPhoneにあやかるこのエコな開発リソース配分でこそ成り立っているものであって、それ以上のダイバリエーション、ましてMac専用コアを作るリソースを捻出する体制には見えません。

昔話をすれば、PowerPCをMacしか使っていなかったから開発が滞り性能競争から脱落してIntelに移行する必要が出てきたわけで、iPhoneにあやかることなく少ないリソースでMac専用コアを作っても同じように脱落してしまうんじゃないかと思います。

また、IntelでもP/Eコア、AMDでも将来的にZen5/Zen4Dと、1つの世代では2種類のコアを作るのが今のところ限界なので、AppleがiPhone向けの2種類に加えて更にもう1種類のコアを並行開発するのはリソース配分以前に困難に思えます。

 

以上のことから、現時点でMac ProをApple Siliconで置き換えるのは(とんでもない価格で32+8コアとする力技を別とすれば)困難に思えますし、中長期的にはMacBook Pro以上のハイエンドMacも性能が頭打ちするリスクが大きいように思えます。

長々と書いてしまいましたが要は「水平スケールで対応しきれないように見えるが垂直スケールはできるのか?」という疑問です。

この疑問はM1が出た2020年からずっと思っていて、そこにAppleがどういう答えを提示するのかずっと気になっていたわけですが、当初表明していた移行期間2年を過ぎてもまだその答えを見ることができていません。M1 → M2ですらN5をN5Pに移行しましたという話でしかなく、正直2年間ずっと足踏みしている印象です。

Appleはどうするんでしょうか?

つまらない予想

さて、ここからは個人的な予想です。この状況を踏まえてApple Siliconの方向性を占ってみましょう。

  • 当面はプロセス技術の先行でお茶を濁す(TSMC頼り)
  • Mac Proは2023年後半まで出ない

結果はつまらないんですが、このあたりなんじゃないかなあと思います。

Apple Siliconが追いつき追い越され置いていかれるリスクを書いてきたわけですが、直近では

  • Intelがまたプロセス技術で足踏みしそう(Meteor Lake/Intel 4の雲行きが怪しい)
  • TSMCを札束で殴っていればAMDに対してはプロセス技術で常に1〜2年先行できる

という(特に対AMDでは)身も蓋もない現状があるためです。

なので、しばらくはTSMCの最先端プロセス最初の顧客というステータスを維持しながら、その優位性をApple Siliconの優位性として喧伝していくことを続けるんじゃないかなと思います。

一方で、そのTSMCも3nm最初のN3がコケたという話があり、AppleもM3をN3ではなく次のN3E製造にシフトしたという話があります。M2は既にIntel/AMDへのプロセス技術優位性を失っており、これを2023年にMac Proに載せても微妙な性能になってしまうので、M3が使える2023年後半まで待つんじゃないかなと。

まあ、Mac ProはXeonやThreadripperのワークステーションと直接張り合っているわけではないので、そこまでM2を水平スケールしたバージョンを載せて出すことを忌避しない気はしますが、M2 Max x4のM2 Extreme(仮)はキャンセルされたという記事があったので、M2世代はMac Proごと出ないんじゃないかなという予想です。16+8らしいM2 Ultraが最上位で出たらあまりにも面目がないんでは・・・

そして最終的かつ悲観的な予想としては、

  • Apple Silicon Macが劣勢になる前にMacごとなくなる

ですかね。14nm足止めだったIntel Mac末期やモバイルがG4足止めだったPowerPC末期ほど悲惨な状況になるにはそれなりの年月を要するので、それまでに技術革新が起きる、ではなくMacの主要なニーズを緩やかにiPadに吸収させていき、Macが無くなるんじゃないかと。

実際のところ、AppleにとってMacの絶対的に必要な部分はiPhoneのためのiOSアプリ開発プラットフォームだけであって、あとは失っても痛くない市場規模なんじゃないかと思っているので、「iPad Proでアプリを作ってください」という暴挙、Appleならやりかねないと思っているんですよね。

それは極端にしても、Mac Pro〜MacBook Proに要求される性能を支えられなくなってきたら、これらのSKUが順次消えていってMacBook AirとMac miniだけになる、くらいは充分にあるんじゃないでしょうか。

逆に超が付くほど希望的観測を言うならば、AppleにはApple Silicon完全移行を諦めてもらって、モバイル/ローエンドはApple Silicon、ハイエンドはx64という構成を続けてもらうことですかね!Hackintoshユーザーとしてはこれを夢見てます。移行期間が延びれば延びるほどx64/ARM共存環境を恒久化しやすくなるし、SSD大容量化でユニバーサルバイナリのフットプリントも問題にならないですし。

ということで、Mac Proに対してどういう答えを出すか、これで大体のことが見えてくると思うので、2023年にはいろいろな疑問が明らかになるんじゃないでしょうか、ということで締めたいと思います。

今年最後のネタになりませんように(フラグ)。

2 件のコメント:

  1. 概ね同意ですが、加えてメモリにも問題があって、スマホ用のメモリなんでMacProを名乗れるだけの容量を満たせるメモリチップがほぼないですね。作ることは可能らしいですが、専用特注になってしまいます。
    あとは遅延、AMDですらこれを誤魔化す?ために大容量のキャッシュに加え、3Dキャッシュを積み増してますが、iphone流用の足枷のあるMacでは似たようなことはできないでしょう。しかもビデオコアも各モジュールに分散してるんでMacProの規模になると無視できなくなると思われます。

    M2は実質M1.5でしかないので、おそらくバリエーション展開はせず、M3でってことになるんじゃないかと思ってます。
    MacProはフェードアウトさせるんじゃないかと予想してます。

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    1. 話が広がりすぎるのでGPUとメモリについては触れませんでしたが、メモリ容量も確かに問題ですね。

      ユニファイドメモリを諦めて、Maxを複数ブリッジするIOダイにDDR5コントローラを載せれば容量は解決できるでしょうが、Apple Siliconの売りだった広帯域メモリが失われてしまうので性能への影響が大きいでしょうしね。

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