2016年8月21日日曜日

IoTはUMPCの救世主になるか?


Intelの開発者向けイベントIDFで、IoT向け開発ボードである「Joule」が発表されました。なんで突然そんな話を・・・というところなんですが、驚くべきことに4コアのAtomが載っています。

これまでIntelのIoT向けシングルボードコンピュータと言えばGalileo / Edisonで、CPUはQuarkや低クロック2コアAtomだったわけですから雲泥の差です。IOも含めて、十分にフルWindowsを動かし得る、言い方を変えればUMPCに転用できるレベルのSoCなわけで、タブレット向けAtom亡き今となっては俄然(私の)注目を浴びる存在になっています。

今回は、タブレット向けAtomの終息から振り返りつつ、AtomとUMPCの将来についていつも通り長々と書いていきたいと思います。



スマホ・タブレット向けAtomの終焉


まず、背景となるスマホ・タブレットAtomが終息する件について過去記事でも引用しておこうと思ったのですが、実はGPD WINとDragonBox Pyraの紹介記事で触れただけでちゃんと書いてなかったという記憶違い。というわけで、まずはここを振り返ってみたいです。

スマホに載らなかったAtom


Intelがこの分野からの撤退を決めた最大の理由は、スマホ市場においてARMの牙城を崩せなかったどころか引っ掻き傷も付けられなかったことだと思っています。

なぜ崩せなかったか?というのも、個人的考察にはなりますがモデムの統合ができなかったことが最大の失敗だと思っています。(CPUと同じく)高コストで電気食いなLTEチップはハイエンドならまだしもミドルレンジ以下ならSoCに統合できていないと話にならないはずです。価格はダンピングでいくらでも安くできたけど

結果として、メジャーどころではZenFone 2にZ35x0が載ったくらいで、Atomがスマホに広く採用されることはありませんでした。SoFIA(Atom x3)ではついにモデム統合を果たしたものの、新興国向けだったのか3Gだった結果当然広く使われず、一部中華スマホに採用されるに止まりました。そして予告されたLTE版はついにAnnouncedのままリリースされませんでした。作れなかったのか、受注が無かったのかは謎。

Snapdragon 810の爆熱ぶり(とそれでも採用される事実)を考えれば、次期Atomである(はずだった)GoldmontコアでLTE統合のAtomがあれば十分戦えてたと思うんですけどねぇ・・・Windows 10 MobileがContinuumをウリにしてますが、そんなんじゃなくファブレットサイズのスマホにAtom載せてMobileじゃないWindows 10にMobile UIを被せて、「Continuumでx86アプリも動く!」みたいなWindowsスマホを作ればバカ売れした気がするんですけどどうでしょう。

タブレットは市場ごと崩壊


さて、そんなわけでスマホ市場では存在感ゼロだったAtomですが、2014・15年くらいは8〜10インチくらいのタブレットにおいて活況で、Lenovo・Dell・ASUS・東芝・NEC・・・有名どころのメーカーは一通りBay Trail(Atom Z37xx)搭載タブレットを発売していました。

ここまで活況だったのは、タブレットはWiFiが中心でモデム統合の必要がなかったこと(事実ほぼ全モデルがWiFi専用です)や、AtomにはWindowsを動かせるというアドバンテージがあったためだと思います。

しかしながらこの活況も長くは続かず、Bay Trail後継のCherry Trail搭載タブレットはほとんど発売されず、Surface 3が目立つくらいであとはほとんど中華タブだけ、という状況になってしまいました。

Bay Trailより優秀であるはずのCherry Trailがなぜ、という感じなのですが、理由はAtomの問題ではなく8〜10インチのタブレットが市場ごと崩壊していたためです。気付けばWindowsタブレットはもとより、Androidタブレットすらロクに発売されず、このサイズの新製品はiPadくらいしか出ない惨状に。

ちょうどこの時期はスマホの大画面化が定着しだした頃で、多くの人は小型タブレットを必要としなくなったんだと思います。タブレットの活路はSurface Pro・iPad Proに代表されるようなノートPC代替としての2in1タブレットに移行し、情報消費デバイスとしてのピュアタブレットは急速に市場を失っていきます。

元々Windows搭載がウリで情報生産寄りだったAtomタブレットへの影響は大きく、また2in1タブレットはもはやAtomではなくCore i・Core mがカバーする領域だったためタブレット向けとしてもAtomの行き場は無くなってしまいました。

(この情報消費デバイスとしてのスマホ・タブレット、情報生産デバイスとしての2in1・PCという観点について凄く思うところがあるので、いつかがっつり書いてみたいなーという気持ち)


瀕死のAtom


スマホ・タブレットから事実上撤退したことで、そもそもAtom自体存在ごと消えそうな状況でした。というのも、ローパワーIAとしてのAtomは他に省電力サーバ向けのAvotonくらいでしか使われていない上、こちらも通常のメインストリームIA(Broadwell)のXeon Dに置換されそうな状況だったためです。

Atomを冠しない同アーキテクチャのCPUとして低コストPC向けのBraswellがPentium/Celeronとして提供されていますが、こちらは安ければなんでもいいため、(Apollo Lake以降の)後継アーキテクチャは省電力性を意識しないただの小ダイサイズ低コストアーキテクチャになる可能性がありました。


ローパワーIAの未来はIoT?


そんなローパワーIAとしての存在意義が問われる状況だったAtomですが、突如としてJouleが発表されます(やっと話が戻る)。というわけでこのJouleとは一体何者か考えてみます。

謎のハイスペック


何よりも特徴的なのが、IoT向けとしては不釣り合いに思えるCPUの高性能さです。

前身のEdisonにもAtomは載っていましたが、これはSilvermontを2コア・500MHzまでスペックダウンしたもので性能も低く、モデルナンバーすらなかったことを考えるとそんなに戦略的に載せたものとは思えませんでした(推測ですが、Galileoに載せていたPentiumベースのQuarkがあまりにもロースペック過ぎて急遽方針転換した結果急造されたチップなんじゃないでしょうか)。

一方今回載っているCPUはAtom x7(Airmont)ベースで2.2GHz(Joule搭載のT5700は1.7GHz)ということで、x7-Z8750比でざっと7〜9割くらいの性能ということで飛躍的に性能向上しています。

しかもGPUがSkylake相当のGen9ということで、ここについてはGen8が載っているCherry Trail以上になっています。

Edisonの後継として考えれば2コアで十分そうなところ、4コアでほぼフルスペックというのは謎と言っていいくらいの高性能さです。(BraswellのCeleronに2コア製品があるので、2コアが作れないアーキテクチャでもない)

その他性能についてはPC Watchの記事で詳細に述べられています。

何に使われるのか?


ここで疑問なのが「この高性能は何のため?」というところです。Joule自体は開発ボードですが、当然Jouleに載っているAtom T5x00を何らかの製品に組み込むための開発ボード(あるいはJouleをそのまま製品に載せる?)ですからこの性能レンジが必要とされる場面が想定されているはずです。

一般的にIoTというと従来の家電向け組み込みチップにWiFi・BTが付いて統合制御されるようになる・・・程度のイメージですが、その範疇では明らかにオーバースペックです。もちろんその程度だと「ARMでいいじゃん」になる世界だからこそx86である以上高性能に振る必要があったんでしょうが・・・

GPUがGen9というのも謎で、あえてCherry Trailで統合済みのGen8でなく更に高性能なGen9を組み合わせてきたのかがよくわかりません。

例えばNVIDIAのTegraは、高性能なCPU・GPUを自動運転車で必要な画像認識といった技術に適用することをターゲットにしているようですが、そういったハイエンド?の領域を考えると今度はいくらGen9がオンボードGPUとして高性能でもGPGPUには使えないものなのでますます用途が見えてきません。


チラつくWindowsの影


そこでどうしても浮かんでくるのはMobileでもIoTでもないフルWindowsの存在です。Jouleに載っているAtom T5x00はフルWindowsを動かし得るほどの性能ですが、逆に言えばフルWindowsを動かすためにこれだけの性能になったんじゃないでしょうか?

Windowsといえば、MicrosoftはPC・スマホ・Xboxなど全てのプラットフォームを統一する「One Windows」戦略を掲げています。スマホでは前述の通りIntelは脱落しましたが、そのWindowsスマホが明らかに苦戦していることを考えても、やはりWindowsはx86を必要としているように思います。

また、One Windows戦略に含まれるHoloLensは、開発版ながらAtomでWindowsが動いています。HoloLensをIoTと呼ぶかというと違う気はしますが、VR/AR/MRはまさにCPU・GPU性能を欲する分野で、かつMicrosoft的にはフルWindowsを動かしたい(だろう)と考えると、このあたりがIntelとMicrosoftの思惑が一致するところに思えます。


UMPCの救世主になるのか?


フルWindowsを動かし得るJoule、ひいてはAtom T5x00の性能を考えると、終息したスマホ・タブレット向けAtomの代わりにIoT機器向けAtomが今後UMPCに転用できるのではないか?という期待が出てきます。何せUMPC自体はニッチ市場で今後専用プラットフォームが開発される気配もないので、別の用途向けチップを流用するしかないわけですから。

少なくとも、JouleはフルWindowsを動かすために必要な全てを備えているように見えます。CPU・GPUだけでなく、LPDDR4・USB3.0・11ac・BT4.2・eMMC5.0・HDMI・PCIeを完備しており、メモリとeMMCに至ってはCherry Trail(LPDDR3・eMMC4.51)より優れているほどです。パッと見欠けているのはDisplayPortくらいですが、MIPI DSIとHDMIを備えているため問題ないでしょう。

Jouleの対応OSとしてはLinuxとWindows 10 IoT Coreしか謳われておらず、フルWindowsは含まれていませんが、SoC単体で完全なx86 PCシステムとして成り立っている以上、JouleはともかくAtom T5x00を載せたWindows PCはIntelが望めば造作も無く作れる(ドライバ等が提供される)でしょう。

もちろん、Atom T5x00自体は(GPUはともかく)Atom x7よりCPU性能が低いため、これをそのまま載せたUMPCが出ればいいか、というと違います。ただ、主にMicrosoftの戦略面で「フルWindowsを動かせるIoT向けSoC」が必要とされるならば、今後もこの路線で製品がリリースされることになるわけで、そこに期待できます。

特に、次期スマホ・タブレット向けAtomだったはずのBroxtonキャンセルにより、低コストPC向けのApollo Lakeでしか出番が無くなりそうだったGoldmontコアを搭載した後継製品あたりが出ると、性能的にもZ8750に追いつき・超えてくるでしょうからかなり期待したいです。

Jouleの話ではないですが、そのあたりのIntel・Microsoftの思惑についてはPC Watchのコラムにも書かれていて、やはりフルWindowsをIoT・VRクラスの小型機器にも落とし込んでいく(UMPCオタクにとっては追い風の)流れは来ているのかな?という感じです。

スマホ・タブレット撤退で事実上Android・iOSへの道が絶たれたIntelと、Windows Phoneの不振でARM進出が進まない(Windows RTは忘れてあげましょう)Microsoft、双方の向き先は結局x86 Windowsに戻ってくるんじゃないでしょうか。

最後に、上のコラムに興味深い話が載っていました。
ラウンドテーブル後、Intelの5G Business and TechnologyのGMであるRobert J. Topol氏に話しかけられた。ハンドセット向けのSoCもきちんとやっているから心配することはないと耳打ちされたのだ。それは新しいAtomが水面下で開発途上にあるのかと聞くと、具体的なことについてはまだ開示はできないが、その通りだと言われた。
え、やめたんじゃなかったの!?

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